レバーを回すと水が流れて、それで終わり。トイレのあの数秒のあとに何が起きているかを、私たちはほとんど知りません。知らなくても暮らせるのが良いインフラの条件だとすれば、下水道はきわめて優秀です。
9月10日は「下水道の日」。今日は、足元で起きていることを7つ覗いてみます。マンホールの写真を撮りたくなったら、それはそれで正しい読み方です。

旅先でマンホールの写真ばかり撮っていたら、同行者に「さっきから何を撮ってるの」と真顔で聞かれました。ご当地デザインの話をしたところ、翌日にはその人のほうが熱心に下を向いて歩いていました。沼は、意外と浅いところに口を開けています。
1. なぜ9月10日なのか
この日付には理由があります。9月10日は、立春から数えて二百二十日にあたる頃で、昔から台風が多い時期とされてきました。
下水道の役割は汚水を処理することだけではなく、降った雨を街から排除することでもあります。台風シーズンの入り口に「雨水を流す仕組みを考える日」を置いた、というわけです。1961年に始まった全国下水道促進デーが、2001年に下水道の日と改称されて今に至ります。
2. 日本の下水道普及率は、およそ8割
下水道の処理人口普及率は全国でおよそ8割。浄化槽なども含めた汚水処理人口普及率で見ると9割を超えます。
ただし地域差は大きく、大都市では9割を超える一方、人口の少ない地域では整備が進んでいないところもあります。管の総延長は地球を10周以上できる長さに達していて、これを維持・更新し続けることが、いまの大きな課題になっています。老朽化した管が原因の道路陥没は、実際に各地で起きています。
3. マンホールの蓋が丸いのは、落ちないから
これは有名な問題ですが、答えが気持ちいいので何度でも書きたくなります。円は、どの向きに傾けても穴を通り抜けられない唯一に近い形だからです。
四角い蓋は、対角線が辺より長いので、斜めにすると穴に落ちます。落ちた先には作業員がいるかもしれない。ほかにも、丸ければ転がして運べる、向きを合わせずにはめられる、水圧や土圧が均等にかかるといった利点があります。理由が一つではなく、全部が同じ結論を指しているのが良いところです。
4. ご当地マンホールと、マンホールカード
日本のマンホールの蓋には、自治体ごとに驚くほど凝ったデザインが施されています。市の花、名産品、城、キャラクター。カラー版まであります。
これが一部で人気になり、2016年からはマンホールカードという無料の配布カードまで登場しました。現地の窓口に行かないともらえない仕組みで、そのために旅に出る人がいます。足元の鉄の蓋が観光資源になるというのは、なかなか痛快な話です。旅先で下を向いて歩く趣味、意外と楽しいのでおすすめします。

5. 流していいのは、トイレットペーパーだけ
ティッシュペーパーは、水に溶けません。正確には、水中でほぐれるようには作られていません。トイレットペーパーが水中で短時間にほぐれるよう設計されているのに対し、ティッシュは濡れても破れにくいことを目的にしています。用途が逆なのです。
「流せる」と書かれたお掃除シートも、製品によってほぐれ方はさまざま。詰まりの原因になりやすいのは、油、髪の毛、そして流せると書かれたもの。台所の油を流すと、下水管の中で固まって「ファットバーグ」と呼ばれる巨大な塊になることがあります。海外では数十トン規模のものが撤去されたこともある、笑えない話です。
6. 大雨のときに川が濁る、その理由
古い市街地に多いのが合流式という方式で、汚水と雨水を1本の管でまとめて処理場へ送ります。建設が安く早いという利点がありますが、大雨のときは処理能力を超えてしまう。
そのとき、あふれた分は簡易な処理をして川や海へ放流されます。大雨の直後に川が濁ったり、においが気になったりするのは、これが一因です。新しく整備される地域では汚水と雨水を分ける分流式が採用されていますが、既存の街を作り替えるのは簡単ではありません。ゲリラ豪雨が増えるほど、この課題は重くなります。
7. 地震のあと、トイレを流してはいけない
最後は、いちばん実用的な話です。大きな地震のあと、断水していなくても、排水管が無事だと確認できるまで自宅のトイレを流してはいけません。
管が壊れていると、流した汚水が行き場を失って、集合住宅では下の階の部屋にあふれ出すことがあります。実際の被災地で起きている事故です。だからこそ、備蓄として携帯トイレが必要になります。東京都は1日5回×3日分×人数を最低限の目安としており、4人家族なら60個。できれば1週間分あると安心です。
水は流せなくても、生理現象は待ってくれません。ここが災害時にいちばん切実になる部分です。
まとめ:足元を、いちど見てみてください
下水道は、うまくいっている限り誰にも気づかれません。気づくのは、詰まったときと、災害のときだけ。それでも毎日、私たちの生活の裏側を静かに支えています。
今日の帰り道、マンホールの蓋の模様を眺めてみてください。そこに描かれているのは、たいていその街が自慢に思っているものです。
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